本栖湖キャンプと精進湖自然観察路での出来事

この記事は過去に自分の記録用に書いていたものに加筆修正したものです。

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この前、友人Tと本栖湖キャンプに行ってきた。愛犬はキャンプはあまり好きではないと思うが、ハイキングの予定もあったから連れて行った。

ぼくとTは30代になった今でも年に数回は一緒にアウトドアに行く。お互いおっさんになったが、気を使わずに出かけられる相手というのは貴重である。

ぼくらは本栖湖キャンプ場にテントを張り、近場で犬を連れて歩けそうな場所、ということで精進湖自然観察路に向かったのだった。

精進湖の駐車場に着いて、湖を見ながら歩いていくと自然観察路の案内板を見つけた。しかし入り口がわからない。こういう時にぼくらは適当である。舗装された道、人気も多少ある場所ということで、完全に油断している。

入り口がわからないから、ぼくらはすぐ隣りの精進活性化センターに入ってみた。しかし今は使われていないのか廃墟のような佇まいである。困ったな、と辺りを見回すと人が歩いたであろう獣道のような細い踏み跡を見つけた。踏み跡を少し進むと、精進湖自然観察路の進行方向を示す標識がある。

良かった良かったとぼくらは先に進んでしまったが、これは道を間違えていたようだ。スタートを雑にしたせいで後悔することになった。

自然観察路はほとんど人が来ないのか、植物が繁茂し、進むにつれて経路がよくわからなくなってきた。森の中は薄暗く、少し不気味である。
「これもう樹海だよね」
「迷ったらアウトのやつ」
などとお互いに不安感を煽りながら恐る恐る進む。

ヒト二人が方向感覚もわからなくなったのに対し、8メートルの伸縮リードを付けた愛犬はどんどん進んでいく。ぼくらが道を探りながら歩くのに対し、愛犬には迷いがない。少し下を向きながら、トコトコと先を進んでいく。

そして気がついた。愛犬は以前ここを歩いた誰かの足跡の匂いを嗅ぎながら進んでいる!
「アンがちゃんとイヌやってるよ」
「イヌの鼻ってマジですごいんだね」

愛犬を称賛しつつ、ルートを完全に犬に任せることにした。

植物が茂り、ヒトには経路が分岐しているように見える所も愛犬は迷いなく進んだ。まるで一本の光る線を辿っているかのような動きで、愛犬の動きから以前ここを歩いた誰かが少し経路を外れて立ち止まったであろう所までわかるくらいだった。ぼくはこの時、イヌの持つ能力はヒトを助けることがあるのだと実体験を伴って知った。

愛犬に付いていく形で何とか「迷いの森」を抜けると、精進湖の湖畔が見え、ベンチもある。活躍してくれた愛犬におやつをやり、ヒトもイヌも水分補給をして少し休むことにした。

愛犬は半年ぶりに会ったTと交流したいらしく、しきりに飛びついたり撫でてもらおうとしたりしていたが、イヌに慣れていないTの対応は淡泊で愛犬は不満だったかもしれない。

その後は経路もわかりやすく、のんびりとしたハイキングになった。愛犬はぼくとTの間を行ったり来たりして、たまに先に行くとぼくらが追い付くのを待ったりしていた。(なぜ愛犬が迷いの森でのみ匂い探知したのかわからない。その以前歩いた誰かはここも通っているはずだと思うのだが)

のんびり歩いて行くと、最初に見た精進湖自然観察路の案内板の裏に出た。植物が茂っていたせいでわからなかったが、どうやらここが入り口だったようだ。ぼくらは逆?に歩いてしまったらしい。

そろそろ日も暮れてきていた。駐車場に戻り、キャンプ地の本栖湖にぼくらは戻った。

夕飯はぼくが持参した残り物カレーと、道の駅で買った野菜と行者にんにくソーセージを入れたコンソメスープ、ご飯はパックのものを湯煎した。

イメージです

夕飯後はのんびり焚き火を囲む。ぼくはビール。キャンプや野営で酒を飲んでもたいして良いものではないと経験から知っているのだが、つい買ってしまう。

酒を飲まない甘党の友人は干し芋をかじっていた。愛犬は焚き火の近くで伏せて休んでいたが、干し芋を見ると物欲しそうにアピールし始めた。ぼくはTに頼み愛犬に干し芋をわけてもらった。この時からTは愛犬にとって「久しぶりに会ったおっさん」から「美味しい芋をくれる大好きなおっさん」に昇格した。

焚き火を燃やし尽くしてぼくらはそれぞれのテントに入った。ぼくはオートキャンプではコールマンのツーリングドームを愛用している。このテントは一人用だが広めで、愛犬のクレートを入れてもぼくが寝るスペースがある。愛犬は家でも自主的にクレートで寝るから、キャンプや旅行の時もクレートで寝かせている。

シュラフに入り、ぼくは精進湖での一件について考えていた。ぼくはふだんの散歩でも愛犬の匂い嗅ぎを好きにさせている。イヌにとっては匂いから得る情報や刺激が成長にとって必要なものなのだろうと考えてのことだったが、今回の一件でますます愛犬の嗅覚を伸ばしてやりたくなった。

そのあとぼくはふと思い出して、寝付けないとき用にバックパックに入れていたコンラート・ローレンツの「人イヌにあう」を読み返そうと取り出したが、数ページ読んですぐに寝入ってしまった。ぼくはキャンプで本を読めた試しがない。